文物の修復と再現

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無限の文物コレクション——
国立台湾文学館、無限の文物コレクション。

当館は手稿、書画、道具など、12万点以上におよぶさまざまな貴重な文物を収蔵するほか、専門的な保存設備と人材を備えています。当館は過去20年間、創作に心血を注いだ作家たちの努力を守るという責任を果たすため、保存、修復、文学研究など博物館としての基本的な業務に尽力してきました。

さまざまな地域から集められた文物には劣化や虫害が多く見られるため、学芸員たちは一つひとつ診断し、科学的な検査や分析技術など各分野の知識を駆使して問題を解決し、着実な保存と修復を実現しています。また、材質や文物の種類に応じた修復方法を提案し、適切な方法と材料を用いた修復によって文物の寿命を延ばし、展示や研究といったさらなる応用を実現しています。

本展はテクノロジーによる修復、デジタル・ヒューマニティーズ、文学の翻訳コラボレーションによる成果で、当館が20年にわたり収集してきた文物の歴史を紹介します。歴史、人、文化の交わりはどのように文物の紋様として刻まれているのか、そしてこれら文物は今ここにいる我々に対し、作家の記憶と観点からどのように時間と空間を超えて深く刻まれた過去と生命の記憶を伝えているのかを紹介します。

本展では、文物と文学のよみがえる記憶を「文物のリズム、収集の歩み」「文物の再現、永遠の保護」「クラウドデジタル、3D文物」「文学の翻訳、文物の変容」の4つのエリアに分けて展示します。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:葉石涛の藤椅子
葉石涛の藤椅子の修復記録をドキュメンタリーで再現しています。文学史において特別な意味を持つ椅子について、修復家はどのように文物の歴史的意義と機能性を天秤にかけ、修復の程度を判断し、現状の安定を第一目標とした適切な修復と保護を行ったのでしょうか。残された藤椅子は単なる物ではなく、故人の風格を漂わせています。(国立台湾文学館収蔵)

図説3:姚一葦の机
1949年、中国の廈門から台湾の台北にやってきた姚一葦は、木柵に家族と居を構え、この木の机に向かって執筆を行いました。彼の作品と学習ノートは台湾の戦後演劇史に素晴らしい1ページを開きました。(国立台湾文学館収蔵)

図説4:読書室の修復

図説5、6:AR写真

文物のリズム:収集の歩み

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島々の文化と生命を継承した最も力強いストーリーテリングが、博物館の収集の歩みにおける最も重要な価値となっています。

当館への自発的・受動的な文物寄贈の過程では、生命や歴史に関わるさまざまな感動的な物語が込められてきました。その声は物体の紋様の中、そして収集・整理の過程において蓄積されています。

注意深く読み、じっくりと観察してみてください。文物の鼓動が聞こえてくるでしょう。彼らは変移の過程において静かに時を待ち、一種の信念を持って次の旅路につきました。

ある午後のオフィス、家族と学芸員が向かい合って座り、机には文物の寄贈プロセスと収蔵後の計画が並べられています。これは作家が生涯をかけて心血を注いだもの、そして親の生涯をかけた文壇への挑戦を守ろうとする子供たちの姿勢です。個人の力には限界があるため、当館が文学の研究と収蔵の力を集結して世代の思いを引き継ぎ、次の時代の素晴らしい章を紡いでいきます。

収集される文物は主に紙の手稿、文友との手紙や写真です。その中でも目を引くのは林海音がコレクションした象の人形です。これは家族の夏祖麗さんと夫の張至璋さんがさまざまな思いを抱きながら実家から整理し集めたもので、「文壇の半分」と呼ばれた林海音の客間の様子を最も克明に描いています。

図説1、2:展示会の実際の様子

図説3:林海音『来信記録登録冊』
ラベルは夏祖麗さんの手描きによるもので、登録冊には1990年代における文友との手紙のやりとりが記載されています。これは林海音の数多くの手紙の記録の一部であり、全部をあわせると1000通以上の手紙が収蔵されています。1970から1990年代、林海音により『聯合報』特集版、雑誌『純文学』で形成された文学圏が見て取れます。(国立台湾文学館収蔵)

図説4:AR写真

文物の再現:永遠の保護 第1展示エリア

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騒がしいロビーを離れて文学の回廊を通ると、まるでタイムトンネルに入ったかのように文物の一生とその情景を探ることができます。

歳月の経過により文物に残されたさまざまな痕跡を癒すように、当館の静かな地下室の片隅にて、学芸員は一つひとつの文物を慎重に登録してファイルを作成し、専門的な診断を通じてそのルーツを探り、専門的な対策を講じていきます。当館は2009年に文物修復室を設置し、14年間にわたり、数え切れないほどの貴重な文学・文物に対して治療ともいえる包括的かつ健全な修復をサポートし、数々の素晴らしい事例を蓄積してきました。文物そのものを基礎とした専門的かつ丁寧な保存によって、文学史料を永らえさせ、時間が経っても新鮮に感じられるようにするための重要な鍵となります。

毎回の修復は、史料の完全な考察と慎重な評価を経て行われます。紙の穴を充填する場合、学芸員は紙の選択、染色、削り、重ね合わせなどを慎重に検討します。手稿や書物の構成や構造を理解するために、製紙や装幀の技術、材料科学など、さまざまな側面を熟知する必要もあります。国立台湾文学館は、厳格な保存理念の堅持と実践を通じ、文物そのものを修復するほか、文物の背後に連綿と続く歴史的感情と記憶を完全に保護しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:執筆史における耐えられない軽さ——『這三個女人(三人の女性)』草稿の一部
元副総統の呂秀蓮氏からの寄贈。獄中で書かれた手稿です。呂氏は作品が抜き打ち検査で没収されないように、プラスチック製の桶をひっくり返して机の代わりにし、ちり紙を原稿用紙として使用しました。苦難の中でちり紙に書かれた作品はしっかり守られ、丸めて布団の中に隠して監獄の外に送り出されました。その小説『這三個女人(三人の女性)』は後に発表・出版の機会を得てテレビドラマ化もされました。修復時は、不安定な要素の除去とちり紙の構造強化を最優先事項とし、適切な収蔵・保存により、貴重な手稿を再び一般公開できるようになりました。(国立台湾文学館収蔵)

図説3:インクペンの美と哀愁——劉吶鴎の日記1927
およそ100年前の初代文学青年といえる劉吶鴎は、西洋のインクペンで日記を書いていました。しかし、インクの成分が紙の加水分解と酸化を早めるため、貴重な筆跡を完全に保存するには細心の注意と保護が必要となります。修復時は、本とページの構造の安定化を最優先事項とし、破損した部分にもともと貼りつけられていたテープを剥がしてページを補強したほか、本の解体と段階的な再構築により、日記はかつての輝きを取り戻しました。(国立台湾文学館収蔵)

文物の再現:永遠の保護 第2展示エリア

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図説1:現存する貴重な文化財——施士洁『後蘇龕艸(癸卯から辛亥)』
施瓊芳と施士洁は、清朝統治時代の台湾において父子ともに進士となった人物です。台湾で見られる施士洁による最も初期の詩文は、黄典権が施氏の手稿に基づいて編纂した『後蘇龕合集』です。この一連の文物は非常に古く、状態が悪かったため、深刻な虫害があったページを学芸員が一枚ずつ慎重につなぎ合わせて支え、縫い直したほか、個人の収蔵とって最大の課題——となる虫害やカビへの対策を講じました。(国立台湾文学館収蔵)

図説2:燃えた手稿再生の歩み——サキヌ(Sakinu Yalonglong)の手稿
2019年5月11日の深夜、太麻里で発生した大火災により、原住民作家のサキヌが創設した狩人学校が焼失し、手稿を保管していた自宅にも被害が及びました。不幸中の幸いだったのは、災害現場に倒れていた木製のキャビネットが10年以上にわたる貴重な手稿を守っていたことです。同年6月、国立台湾文学館は塵の中から本来の輝きをよみがえらせるため、サキヌの許可を得て火災で損傷した手稿を持ち帰り、修復に取り掛かりました。(提供:サキヌ(Sakinu Yalonglong))

図説3:前進のための前進——頼和「女性の一歩前進」
手稿の原本はもともと頼和紀念館に保存されていましたが、文物の保存の難しさから近年、国立台湾文学館に順次寄贈されています。紀念館は一般公開の必要性を考慮し、プロジェクトへ協力することで原本の修復、デジタル化、専門的なレプリカ技術をサポートします。これにより原本を適切に保存できるとともに、レプリカも頼和紀念館に展示し、作家の精神と文字の力を伝え続けることができます。(提供:頼和紀念館)

図説4:力を合わせて紙の損傷を修復——鄭家珍『雪蕉山館詩稿』
紫霞堂には、台湾における漢学の発展と台湾の文学に関する貴重な史料が1,000点以上収蔵されています。紫霞堂は貴重な知識の宝を保存するために尽力してきましたが、何百年にもわたって受け継がれてきた文物の劣化は避けることができませんでした。2年間の完全な協力プロジェクトを通じ、紫霞堂の928点におよぶ文物の目録作成をサポートしました。また、防虫と保護対策を講じるほか121点の文物をデジタル化し、30点の文物を修復しました。(提供:紫霞堂)

図説5:描かれた文壇の狂人——施明正「鄭清文の肖像スケッチ」
国立台湾文学館には、鍾理和紀念館から寄贈された施明正の肖像スケッチが19点収蔵されています。シンプルかつ力強い筆遣いで、数名の詩人や小説家の風格が詳細に表現されています。収蔵前、額縁や材料の悪さ、収蔵環境などの要因により、一連の作品の保存状態に大きな差が生じており、深刻なものは修復しても黄ばみを軽減するには限界がありました。不適切な材料を除去し、適切な処理を施すことで、文壇の作家の群像をよみがえらせることができました。(国立台湾文学館収蔵)

クラウドデジタル・3D文物

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現在のデジタル・メタバースの時代では、3Dスキャン技術が、現実世界をメタバースにリンクさせる重要な媒体であると見なされています。3Dスキャン技術により、どのように現実世界の物体とクラウド上の仮想世界をリンクさせるか、またどのように素晴らしい物語を伝えるかなど、現実世界と仮想世界の統合に注目する必要があります。収蔵品の3Dスキャンとモデリングの本来の目的は、デジタル時代における文物の収蔵に対応するほか、より重要なのは、文物の質感を詳細に表現し、物語を水先案内人として、収蔵品を倉庫から一般の人々の生活の中に送り出すことです。

国立台湾文学館は2020年から脚本を募集し、30点以上の文物のメッセージを伝えています。また、30点以上のゲームの脚本が作成され、5作のオンラインゲームと館内のデジタルゲームを展開しています。VRと体性感覚技術により、さまざまな年齢層が所蔵品に親しめる体験を展開するほか、誰もがストーリーテラーになれるゲームプラットフォームを作成しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『夢獣の島』
次の文物が登場するVRオンラインゲームです。姚一葦が1949年に中国の廈門から台湾に移住した際の革のトランク。家族や友人の思いが詰まった林海音の象。龍瑛宗が息子と中国の万里の長城に登った際の車椅子。半島を歩きながら文化大業の方向性を尋ねた張深切の署名簿。葉石涛の創作を見守ってきた藤椅子。ゲームの各ステージで、プレイヤーはストリーミング形式で3Dコレクションを見ることができます。(ゲーム脚本原作者:潘瑩真、潘秋如)

図説3:『生命の鳥』
『生命の鳥』は、詩人である呉瀛涛の詩と民俗文化がベースになっています。呉瀛涛の大理石の門牌からスタートし、詩人、市街地、民族の日常生活における祭典、食べ物、飲み物など、さまざまな驚きを紐解いていきます。(ゲーム脚本原作者:郭孟修)

図説4:『蔵字人捜妖録(文字を秘めし者による妖怪探しの記録)』
『蔵字人・搜妖録(文字を秘めし者による妖怪探しの記録)』は、李献璋の「木彫りの媽祖像」から着想を得て、『台湾民間文学集』を融合させ、ゲームのシナリオを作成しています。ゲームの中で、プレイヤーは「蔵字人(文字を秘めし者)」となり、魔法のペンの導きにより、「搜妖之路(妖怪探しの道)」を歩き、四方に散らばった妖怪を「回収」し『台湾民間文学集』のページに封印します。李献璋と同じように散らばって失われた台湾の民話、歌謡曲、なぞなぞを収集することで、李献璋と台湾文学史への理解がより深まります。(ゲーム脚本原作者:陳世華、蔡孟儒)

図説5:『1940』/劉吶鴎の麻雀牌
劉吶鴎は作家、映画人、ジャーナリストなど、さまざまな顔を持っていました。上海に滞在していた1926年から1940年、戴望舒や施蟄存などと「新感覚派」の文芸を提唱し、大いに活躍しました。彼はかつて人生の楽しみとして次の4つを挙げています。「1:本を手放さないこと。2:映画を楽しむこと。3:友人と四人打ち麻雀を打つこと。4:ダンスをすること」。彼の生涯にわたる志や当時の上海の娯楽生活とその豪華な雰囲気がひしひしと伝わってきます。竹と象牙を貼り合わせて作られた麻雀牌は1930年代に使用されたものです。アン・リーの有名な映画『ラスト、コーション』で貴婦人が麻雀を打つ情景や上海文化の影響を受けた作家の姿が目に浮かんできます。(国立台湾文学館収蔵)

文学の翻訳、文物の変容

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分子生物学や遺伝学の分野での専門用語としての「翻訳」。近年ではさまざまな分野を超えて媒体を結び付ける交流と対話の重要な役割を担っています。また、現在の文化界で最も流行している重要なキーワードの一つとなっています。翻訳によって、細胞でタンパク質が合成されるように、白い紙に黒い文字で書かれた文学もゲーム、アニメーション、映像作品などさまざまな製品に変換できます。続いて、当館は翻訳という手法を用いてどのように文物の声や姿を変化させ、豪華な上着をまとわせて日常的な衣食に溶け込ませているのかをみなさんにご紹介します。

図説1:食は文学にあり——所蔵品の翻訳による食べ物、飲み物、料理編:クラフトビール
文学が食べられるとしたら、どんな味がすると思いますか?お皿に盛られたご馳走が食卓に運ばれるとき、どこから文学のスタイルが垣間見られるのでしょうか?本編は「食卓の文学」をテーマに、文物を食べ物や飲み物に変化させた国立台湾文学館のさまざまなアイデアをご紹介します。クラフトビールは『半閒吟社首集』の詩をコンセプトに、台湾文学における重要な収蔵品を人々の生活に溶け込ませ、飲みながら文学の温度を感じられるようにしています。

図説2:身にまとう文学——収蔵品の翻訳による衣類・アクセサリー編
当館の収蔵品『台湾民報』と服飾ブランドUUINのコラボレーション、及び頼和、蔡培火、林亨泰、三毛などの作家の所蔵品や富雨陽傘とコラボレーションして製作した晴雨兼用傘です。国立台湾文学館がコラージュ、再構成、裁断、造形により、文学作品の精神と資質を衣服やアクセサリーに埋め込んだ方法を紹介し、身に付けた人が動く度に強烈な文学の雰囲気を味わえるようにしています。

図説3:文学青年の育て方──収蔵品の翻訳によるテクスチャーアイテム編:新生筆記簿(生まれ変わりノート)
国立台湾文学館の「文学製品」は、クール、ファッショナブル、トレンディを追求する「クリエイティブグッズ」よりも、文物の時代における記憶、文学の価値、社会的意義を掘り起こし、質感を保ったまま表現することに重点を置いています。深い意味を持たせながら、厳粛さを抑えています。本編は国立台湾文学館が研究開発した文具やグッズの背景にある文物の原型と文学の物語を紹介しています。新生筆記簿(生まれ変わりノート)は、「和平宣言」を書いたために投獄された楊逵が「新生訓導処(生まれ変わり訓練所)」の訓練期間に使用していた「新生筆記簿」をベースに、再翻訳を経てデザインされました。ノートの外装は当時の「新生筆記簿」の表紙を復刻したものです。

図説4:AR写真

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