概要

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「糖」と「塩」は古来より人間にとっての必需品です。台南一帯の製糖業と天日干し製塩業は、400年以上にわたり台湾の発展史において重要な地位を占めてきました。塩山とサトウキビ、広大な大地と府城の路地は、台南の歴史の変遷と地域の記憶を載せ、文人墨客たちの文字や風景に映し出されてきました。この甘さと塩辛さの間には、人生の多彩な味わいが混じ合っています。

本展では、文人たちの作品から32点を抜粋し、台南地域に根ざした文章や、他の地域からの旅人が観察したものを紹介しています。文人たちは日常の風景の中で、最も身近な糖分と塩分を用いながら心の内の甘さや苦しさ、人情の味わいを存分に昇華させ、時空を超えて今昔の文学的感性を紡いでいます。心の中でゆっくりと味わい、ご自身で評価してみてください。台南のこの濃厚な味わいは、どれくらいの甘さでしょう?どれくらいの塩加減でしょう?

図説1:展示会の実際の様子

江鵝「料理に砂糖を入れますが、何か?」

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台南の人々にとって、食べ物が甘いというのは当たり前のことである。外で食べる小吃だけでなく、家庭の日常の食卓にも砂糖を加えたさまざまな料理が登場する。煮込める食材の多くは「煮豆油糖」に。魚の切り身を香ばしく焼いてから醤油と砂糖のタレを少し煮詰めるとご飯がモリモリとすすむ。蔭豉を使った料理も少し甘めに。夏の昼ご飯には、冷ましたサツマイモ入り粥に合わせて、蔭豉で漬けた新生姜を食べると最高である。

江鵝「料理に砂糖を入れますが、何か?」
『俗女日常』(時報出版、2021年)

作者紹介:
江鵝の創作ジャンルは主に随筆です。彼女の作品は、女性会社員としての職場観察や仕事観を描き、自身の子供時代を振り返り、記憶の中の人情や結婚の常識について思索しています。平易な文体の中に鋭い視点が包まれ、ブラックユーモアがきらりと光ります。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:江鵝《俗女日常》

図説3:AR写真

米果「新建国映画館とアズキミルクの氷ドリンク、そして侯孝賢について思いを巡らせる」

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またしばらくして、ある真夏の午後、アーケード下の席に座り、道路の向かいにある映画館を眺めながら、アズキミルクの氷ドリンクをゆっくりと啜る。すると、初期の侯孝賢の映画の1シーンに入り込んだような気分になる……。とは言っても、真夏の燃え上がるような熱い青春の思いにぴったりハマったという意味で、侯監督の映画と新建国映画館の風格には何の関係もない。

米果「新建国映画館とアズキミルクの氷ドリンク、そして侯孝賢について思いを巡らせる」
『もしもそれが台南と呼ばれる一種の郷愁なら』(啓動文化出版、2012年)

作者紹介:
米果の創作ジャンルは評論、随筆、小説です。作品は包括的かつ大衆向けで、平易ながら洗練された文体で書かれています。評論と随筆は、自身の経験を基に発展させたものです。創作テーマは、執筆についての思索、生き方、地方や家族について、食生活、社会現象の観察など、あらゆる身近な日常生活に関連したものです。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:米果『もしもそれが台南と呼ばれる一種の郷愁なら』

図説3:AR写真

楊双子「冬瓜茶」

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街角の屋台でマグカップを持ちながらトウガン茶とスターフルーツのジュースを思いっきり飲む。これでこそ、甘いフルーツドリンクの最高の甘美さが感じられるのである。ああ、南都の味わいよ!

楊双子「冬瓜茶」
『台湾漫遊録』(春山出版、2020年)

楊双子の創作ジャンルは評論と小説です。彼の研究は、台湾本土の恋愛小説の創作を中心に、その発展とジェンダーポリティクスについて探求しています。また、小説は日本統治時代を背景に、詳細な史料に基づき、台湾の歴史の流れの中での女性同士の友情と微妙な恋愛感情を描写しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:楊双子『台湾漫遊録』

陳昱良「望梅」

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放たれる梅の香りが砂のように細かな甘い粒子となって時間に紛れこみ、太陽の光がカイコの糸のように水分を蒸発させる。裏庭に入ると、空気中には微かな甘い香りが常に漂い、見えないけれど、道しるべのように、幻のような過去の記憶へと導いてくれる。

陳昱良「望梅」
『第八回台南文学賞受賞作品集』(台南市政府文化局出版、2018年)

陳昱良は第八回台南文学賞華語組散文部門で優等賞を受賞しました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『第八回台南文学賞受賞作品集』

蔡碧吟「台陽竹枝詞五首の四」

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宜晴宜雨好時光,
草粿糖漿製備忙。
招得東鄰諸姊妹,
踏青齊拜五妃娘。

蔡碧吟「台陽竹枝詞五首の四」
『全台詩:第二十六冊』(国立台湾文学館出版、2012年)

鑑賞:
この詩は清時代の台南地域で、春の清明の時期に女性たちが集まって郊外で楽しむ風習を記録しています。この詩ではまず、春の光の中で草仔粿(草餅)や糖蜜などの祭りの供物や食べ物を作るために忙しく動き回っている自分を描写し、次に多くの隣人や友人を招待し、一緒に春を楽しむために五妃娘廟を訪れる様子であることを述べています。短い言葉の中で、若い女性が食べ物を作ったり春の行事を準備したりする心踊る気持ちが表現されています。

蔡碧吟は、閨名を葉詩、号を赤崁女史といい、台湾県東安坊(現在の台南市)の出身です。蔡碧吟は幼少期から父より教えを受け、詩作や書に長け、特に柳体楷書に優れていました。蔡碧吟の生涯の作品はまとめては出版されておらず、『台湾日日新報』『台南新報』『詩報』『台海詩珠』などの新聞や雑誌に掲載されたものが編纂されています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:蔡碧吟『全台詩:第二十六冊』

陳雷『最後のサトウキビ畑』

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糖廠ê火車一節一節拖tn̂g-tn̂g,thia̍p tīnn- tīnn,據在你車bē了。Tī tsia散鄉gín-á作孽,吊火車尾走相jiok,偷抽甘蔗tshit-thô。

台湾語原文の意味:

製糖工場の列車が長々と連なり、(サトウキビ)が山のように載せられている。どんなに積んでも積みきれない。この地域の貧しい子供たちはいたずらで、列車の後ろにぶら下がり、車両内のサトウキビをこっそり抜き取ってはしゃいでいる。

陳雷『最後のサトウキビ畑』(島郷台文工作室出版、2016年)

作者紹介:
陳雷、本名は呉景裕、かつて『台文通訊』の共同発行人を務めました。陳雷の創作ジャンルは評論、詩、散文、小説、劇本です。初期は漢語や英語で執筆活動をしていましたが、後に台湾語での文芸創作に専念しました。彼の作品は主に土地の政治や歴史を題材にしています。特に二・二八事件と白色テロを中心に、環境問題や社会構造の変化にも焦点を当てました。故郷への深い愛情や民族への熱い思いがあふれ出ています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:陳雷『最後のサトウキビ園』

蘇偉貞『同方を離れる』

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昏黄の空気に混じり合う甘いサトウキビの香り、高速道路を通る車から発せられる爆音は、いつ破裂するかわからない爆弾を彷彿とさせ、草の清々しい香りとサトウキビの甘い匂いを炸裂させる。

蘇偉貞『同方を離れる』(聯経出版、1990年)

蘇偉貞の創作ジャンルは主に小説ですが、評論や散文も執筆しています。彼女の小説は、女性が愛情のために自己を捧げるテーマを多く取り上げています。近年はグレーなトーンに移行し、生命のあいまいで不明瞭な情景を描写する傾向にあります。彼女の散文は抒情的な優雅さで日常生活や旅行を描写しています。過去10年に渡る読書歴や編集の歳月も記録しています。評論では、張愛玲の作品とその影響について、特に張派作家に与えた影響を探求しました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:蘇偉貞『同方を離れる』

邱一帆「十鼓文化園区」

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糖廠个歷史寫在建築項
對地泥下到樓棚頂
對台車路到製糖線
對煮茶葉卵个煙窗槓
到保有甘蔗水个糖味

客家語原文の意味:

製糖工場の歴史は建物に記されている
地下から屋根の上まで
トロッコレールから製糖ラインまで
茶葉蛋を煮る煙突から
サトウキビの汁の甘さまで

邱一帆「十鼓文化園区」
『魂の故郷——邱一帆客家語詩歌文集』(桂冠図書出版、2018年)

作者紹介:
邱一帆の創作ジャンルは評論、詩、散文で、小説も執筆しています。彼は客家語文学を開拓し、客家語の文字化を推進しました。文学創作、研究結果、教育の分野に至るまで、客家語での執筆を堅持しています。邱一帆の評論は、客家語による詩歌を研究の核とし、言語と生活の結びつきを探り、文学における民族的な心意形象を分析しています。詩作では周囲の人々や事物を描き、故郷の土地に思いを寄せ、自然や社会問題に対する深い関心を示しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:邱一帆『魂の故郷——邱一帆客家語詩歌文集』

郁永河「台湾竹枝詞十一首の五」

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蔗田萬頃碧萋萋,一望蘢蔥路欲迷。
綑載都來糖廍裡,只留蔗葉餉群犀。

郁永河「台湾竹枝詞十一首の五」
『全台詩:第一冊』(国家台湾文学館、2004年)

鑑賞:
この詩は清朝の統治時代、台湾ですでに大規模に行われていたサトウキビの栽培と製糖産業の特徴を描写しています。詩の中では、果てしなく広がる深緑のサトウキビ畑を望み、サトウキビの生い茂った葉が道路を覆い隠し、人々が簡単に迷子になりそうな様子が描かれています。次に、製糖工場へと視点を移し、大量のサトウキビは束ねられ、牛車で「糖廍(製糖場)」に運ばれて砂糖になるまで煮詰められ、サトウキビの葉だけが牛車を引く牛たちの飼料として残される様子が語られます。この詩は、産地(サトウキビ畑)と製糖場(糖廍)の両方面から、清朝領有下の台湾で繁栄した製糖産業の様子を生き生きと記録しています。

作者紹介:
郁永河は、清の浙江仁和出身で、字は滄浪といい、科挙の秀才にも合格しました。彼は自身を「旅を好み、困難を避けない性格」の旅行好きと称しました。1697年2月、硫黄を採掘するために台湾へ赴き、多くの困難と危険を乗り越え、10月初旬には大きな成果を上げて福建へ戻り、役人文人として台湾での体験や見聞を記した初めての台湾旅行記『裨海紀遊』を記しました。その文末には24首の竹枝詞(土地の風物を描く詩)が加えられ、シラヤ族の風俗や習慣、生活様式が描写されています。これは「土番竹枝詞」として知られ、台湾漢語文言文学の竹枝詞のはじまりとされています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『全台詩:第一冊』

【糖】エリア説明 、利野蒼「収穫」

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【糖】エリア説明
台南の人々が甘い味を好むことはよく知られています。糖分は日常の小吃や家庭料理の中に深く根付き、台南人のDNAに組み込まれています。そして、府城の甘味は口の中で多様に変化するだけでなく、心を動かし、脳内の記憶を呼び覚まし、豊かな層を形成しながら溶けていきます。古から今日まで、時間の足跡が一粒一粒の濃厚な郷愁として書き込まれ、南都の味わいとして煮詰められ凝縮されています。少々の砂糖、半量の砂糖、それとも全量の砂糖。甘い記憶をどのように味わうのかは、お好みで選んでください。
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太陽の斜射に空は甘蔗棚の上でかげらふ。

榕樹でのペタコの王國振りに水牛は赤眼する。化粧で充たの青春の粉飾する娘。手は鎌に砂糖キビを當てみろ。父は淋しい而持で煙管を叩く。――今度の収穫でせめて嫁粧をこさへてやらねば・・・・・。砂糖キビは恐らく砂糖になることを恐れてゐる。

利野蒼「収穫」
原作日本語、方婉禎、楊雨樵訳。『日曜日の散歩者——風車詩社及びその時代』(行人文化実験室、台南市文化局、目宿媒体股份有限公司、黄亜歴、2016年)

利野蒼、本名は李張瑞。本籍は台南関廟庄で、「風車詩社」の重要な詩人です。モダニズム詩に優れ、作品スタイルは「風車詩社」の仲間である楊熾昌のように多角的に展開するものです。濃厚でシンボリック、抒情的な作品を書いただけでなく、李張瑞の詩のことばには力強い美しさがあり、後に台湾の風土が巧みに織り込まれた詩も創作しました。戦後、国民党による白色テロ時代の空気の中、省工作委員会斗六地区委員会の林内事件で逮捕され、家族にも判決書は渡されずに銃殺されました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:利野蒼『日曜日の散歩者——風車詩社及びその時代』

【塩】エリア説明 、呉新榮「台南県の歌」

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【塩】エリア
台南は日照時間が充分あるため、沿岸部では300年以上も前から天日製塩が行われていました。太陽の下で輝く塩の粒子は、風に耐えた労苦の結晶であり、痩せた土壌に汗が落ちて咲いた花でもあります。塩は食物のうまみを引き出します。海風が喉元を通るとき、その塩分は地域住民の記憶に染み入り、心と魂を滋養する養分となります。少々の塩、半量の塩、全量の塩。眩い白い光、あなたはどのくらいがお好みですか?
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珊瑚潭流處,
糖米成山墩;
鯤海浮七嶼,
魚鹽集一門。

呉新榮「台南県の歌」
『呉新榮選集(一)』(台南県立文化中心出版、1997年)

語彙解説:
1. 珊瑚潭:烏山頭ダム(台南市官田区に位置)の別称。
2. 山墩:砂土でできた小さな丘。
(糖米成山墩=砂糖や米が小山のように盛り上がるほど多い様子。)
3. 鯤海浮七嶼:沿岸の海上にある7つの小さな砂州。
4. 魚鹽集一門:魚と塩がみなここに集まる。

呉新榮の作品には論文、詩、散文、随筆などがあり、漢詩を詠むこともあります。詩については、植民地社会の暗部をあぶりだす内容が多く、人々の生活の苦しみに対する深い理解と同情を表現しており、社会主義的な寄り添う思いを表現しています。長編の『震瀛回憶録』は自伝的な小説で、明鄭末康熙初期から始まって戦後初期にかけての約300年間を描いています。台南県文献委員会に勤務していた時期には、『南瀛文献』の編集長を務め、『台南県志稿』の13巻を監修しました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:呉新榮『呉新榮選集(一)』

陳正雄「北門—塩田(二)」

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堅持平凡ê心性
佇深沉曠闊文字ê海洋
過濾 提煉 累積
一點一滴真情ê結晶
每一句
攏有人生難忘ê滋味

原文の意味:
平凡な心を持ち続け
深く広大な海のような文字の中で
真実の感情を一滴一滴少しずつ
濾過し、精錬し、蓄積する
一言一句すべてに
人生で忘れられない味がある

陳正雄「北門—塩田(二)」
『眠夢南瀛』(台南市政府文化局出版、2017年)

陳正雄の創作ジャンルは詩を中心としました。作品の題材は山や川、自然の生態、家族愛、故郷の人々に及び、生き生きと気品高く描き出されています。郷土意識が強く、豊かな情感で人の心を打つほか、風刺的な視点からの切り込みも試み、社会状況に対する内省を提起しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:陳正雄『眠夢南瀛』

蔡素芬『塩田の子供たち』

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灰色の田んぼには引き込まれた海水が浅く溜まり、太陽の光の下で純白の結晶塩が輝き、光を放つ。一つの塩田には無数の塩があり、田んぼから田んぼへ、無数が無数へと連なり、天の果てまで伸びていく。まるで銀河が人間界に降り注ぐかのように。

蔡素芬『塩田の子供たち』(聯経出版、1994年)

蔡素芬の創作ジャンルは主に小説です。齊邦媛は「彼女の小説には、ことばと生活情景が豊かに盛り込まれている」、司馬中原は「文章が軽やかで機敏さにあふれ、日常の生活模様を鋭く洞察し、人間性の根源まで深く掘り下げ、一般人が忘れがちな生命に宿る空間を表現する力がある」と評しています。『塩田の子供たち』から『オリーブの木』まで、蔡素芬は台湾の新たな郷土小説の境地を切り開きました。『姉妹書』は、全て往復書簡の形式を用いて一組の姉妹の結婚生活をめぐるあれこれを描いています。彼女は90年代に革新的な文体、テーマの開拓に積極的に取り組んだ女性小説家です。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:蔡素芬『塩田の子供たち』

王大俊「北門郡八景の北門製塩」

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百畝鹽田夕照平,晴煙萬點海天青。
凝磚碧水無蹤跡,製出梅花玉屑馨。

王大俊「北門郡八景の北門製塩」
『全台詩:第参拾九巻』(国立台湾文学館、2015年)

鑑賞:
この詩は日本統治時代の台南州北門郡(現在の台南北門区)の塩田の風景を描いています。最初に夕日の残火の中、空の雲が塩田の水面に映り込み、塩田と空が一色に融合する美しい絶景を描写します。続いて、「凝磚碧水」というフレーズによって、当時の北門の塩田がすでに新型の瓦盤塩田技術を用いて梅の花や玉石の破片のような美しい塩の花を絶え間なく生産していたことを描き出しています。

王大俊は愁儂、釣翁と号し、晩年は一軒と名乗りました。幼い頃から漢文を学び、漢詩文に深い造詣を持っており、弟子に教えるための塾を開いていました。大正元年(1912年)、王炳南、呉渓、呉萱草と共に「嶼江吟社」を組織し、これが北門詩社の始まりとなりました。王炳南、王克明と共に「北門三王」と称されています。呉萱草、呉丙丁兄弟、黄景寬と親交があり、多くの歌詠みの交流がありました。詩は主に七言絶句で、景色の描写に長け、特に擊缽詩に優れていました。彼の子孫である王劍江によると、王氏の詩稿は数度の転居により失われてしまいました。彼の生涯の詩作は、出版物で読むことができます。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『全台詩:第参拾九巻』

王則修「製塩二首之二」

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致富非無術,鹽田遍海濱。
引潮輸入井,熬水曝成銀。
埕積廉公食,倉儲學士珍。
待將人引取,車載聽轔轔。

王則修「製塩二首之二」
『全台詩:第二十三冊』(国立台湾文学館出版、2012年)

鑑賞:
この詩はまず、「製塩」が高い利潤を生む産業であることを描き、塩田がすでに沿岸地域に広がっていることを示しています。次に、製塩の工程、つまり海水を塩田に引き入れ、太陽にさらして塩にする過程を簡潔に述べ、「銀」という1字に二つの意味を持たせ、塩の花の色を表現しつつ、それが「銀両」であるという高利益の特性も際立たせています。五六句では、戦国時代の名将廉頗と宋代の翰林学士蘇易簡の故事を引用し、塩が食生活に欠かせない貴重なものであることを強調します。詩の最後では、塩が販売される際に多くの車両が次々と連なる様子に思いを馳せ、製塩で富を築くという最初の句に戻っています。

王則修は、「王来」「王貴」という名前で詩を発表していました。台南大目降(現在の新化)の出身です。乙未(1895年)の台湾割譲の翌年、家族と共に福建省漳州府龍渓県に渡り、明治三十五年(1902年)に台湾に戻りました。その後、商売に失敗したため、故郷の新化で教壇に立ちながら、『台湾日日新報』の漢文記者も兼任していました。昭和3年(1928年)8月に「虎渓吟社」を創設して編集長を務め、その後、善化の「光文吟社」の顧問も兼任しました。1951年9月、弟子たちは王則修の誕生日を祝うために全省から「眉齊雙壽」の七律を募ると、300点以上の応募があり、後に記念詩集として発行されました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『全台詩:第二十三冊』

王登山「私は塩屋の息子」

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私は塩屋 塩屋の息子
塩を造るのが何よリも上手で
又何よリも楽しみでも有った
塩屋 で塩を造リ

王登山「私は塩屋の息子」
原作日本語、葉笛訳。『葉笛全集10 翻訳巻三』(国立台湾文学館出版、2007年)

王登山は台南北門の出身で、呉新榮、郭水潭、林芳年などと共に北門七子と呼ばれ、「佳里青風会」や「台湾文芸連盟佳里支部」の設立に関わりました。1935年、楊逵が創立した『台湾新文学』雑誌に参加し、新詩の編集委員を務めました。戦前は『南溟芸園』『台湾新民報』『台湾新文学』などで詩や小品文を発表し、戦後は『偽りなき告白』という手稿が残されています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『葉笛全集10 翻訳巻三』

郭水潭「広い海——嫁ぐ妹へ」

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あちらの 塩氣の
かさかさに乾(ひから)びた 土地には
森もなケれば 竹叢もない

しかし あそこの 濱辺には
をれいは貝殼が 花のやうにころゲ散ってみる

あちらの 塩氣の
かさかさに乾(ひから)びた 土地には
森もなケれば 竹叢もない

しかし あそこの 濱辺には
をれいは貝殼が 花のやうにころゲ散ってみる

あそこの 歷史の古い 港には
赤いジャンクの帆柱が 林のやうにつっ立てねる
あそこの 路次といふ路次には
足跡が荒々しく
刻まれてゐる

郭水潭「広い海——嫁ぐ妹へ」
原作日本語、陳千武訳。『郭水潭集』(台南県立文化文化中心出版、1994年)

郭水潭は短歌、俳句、小説、日記、エッセイ、評論、新詩など様々なジャンルで創作を行いました。初期は日本の古典文学や短歌の研究に専念し、後に新詩の創作で名を馳せ、塩分地帯の重要な詩人の一人となりました。その中でも『棺に哭く日』は、父として子を失った悲しみを生々しく表現し、龍瑛宗に「1939年で最も感動的な傑作」と評されました。一部の詩作には階級を批判する色合いがあり、階級が抑圧するシステムを風刺し、苦労しながら生活する民衆の声を表現しています。小説も非常に有名です。『ある男の日記』は手記自伝形式により、男性が家を離れてからの5年間の生活を描いています。当時の社会の様子が映し出され、人生は芝居の如しという真諦を伝えています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:郭水潭『郭水潭集』

羊子喬「塩田風景線」

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風であれ雨であれ、血と汗の結晶が山積みになって、塩田で雪のように白い肌をさらけ出している。手のひらいっぱいの汗はもはやどこに飛んだのかわからない。ただ日々を風と日差しに委ねるのみである。未来は潮の流れを通り抜け、神を迎える銅鑼を越え、涅槃の浄土に到達する。

羊子喬「塩田風景線」
『収穫』(鴻蒙文学出版、1985年)

羊子喬の創作ジャンルは主に詩で、評論や散文も執筆しています。初期の詩は、濃密な意象、刻み込まれた言葉たちの痕跡に満ち溢れていますが、後に詩の内面を重視するようになり、技巧の運用も明らかに以前の範疇を超え、思考も徐々に成熟しました。彼の散文は、郷愁や旅情の哀愁をテーマにし、生活の重荷に直面する無力感や失意を表現しています。また、彼の『蓬莱文章台湾詩』には、光復前の台湾文学作家や詩人の作品に対する評論が収録され、当時の台湾新詩における発展の脈絡が記録整理されています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:羊子喬『収穫』

江昀「老塩工」

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做了幾代人个鹽事
慣勢鼻著鹹鹹个海風
幾多風風雨雨个日仔
幾多翻牙倒齒个政策
一隻朝代換過一隻朝代
恬恬仔分日頭曬燥个汗水
打幫鹽業維持薄薄个自尊
畜大一群大細子女

客家語原文の意味:
何世代にもわたって塩工(製塩職人)は
塩辛い海風の匂いに慣れ親しんでいる
どれだけの風雨の日々
どれだけの政策の変遷を経て
一つの王朝が次の王朝に変わっても
太陽によって乾かされる無言の汗
薄い自尊心を製塩業によって保ちながら
家族を養い、子どもたちを育ててきた

江昀「老塩工」
『曾文渓の歌声』(華夏書坊出版、2010年)

江昀、本名江秀鳳。台文通訊台湾語モダニズム詩賞を受賞しました。客家語による創作において2010年、行政院客家委員会の優良出版品補助を受け、客家語詩集『曾文渓の歌声』を出版、2011年には客家語散文集『生命の階段』を出版しました。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:江昀『曾文渓の歌声』

許正勳「天日塩」

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日曝鹽會閃爍
日曝人汗水滴
滴啊滴 滴啊滴
滴袂離
鹽粒內底有汗味

台湾語原文の意味:

太陽の下で照りつけられた塩がキラキラと輝く
太陽の下で照りつけられた人が汗を流す
(汗が)滴り落ち、滴り落ち
絶え間なく滴り落ちる
塩の中にも汗の味がある

許正勳「天日塩」
『鹿耳門の風』 (府城台湾語普及協会出版,2002年)

作者紹介:
許正勳の創作ジャンルは評論、詩、散文です。評論の語り口は情熱的で、ことわざや故事を使って論点を強化し、自身の見解を述べています。台湾語詩では豊かな音楽性と文字のイメージ性を活用して相互に補充させながら、感情豊かに歴史に対する感慨や故郷への思いを表現しています。散文は美しく簡潔な筆致に長け、学びの道程、人生のあれこれ、故郷の記憶、家族関係などを題材に軽やかでユーモアある人生の真理を観察し、ポジティブな思考が伝わってきます。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:許正勳『鹿耳門の風』

林仏児「塩分地帯」

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我らはずっと生き、また滅びている
塩分地帯にて
我らは荒く卑微だとしても
頑なに
永遠の自由の粒の群れであり続ける
貧しい土地に光り輝く

林仏児「塩分地帯」
『塩分地帯の詩:中英日法合体詩集』(西港鹿文創社出版、2013年)

林仏児の創作ジャンルは詩、散文、小説です。その詩は明るいスタイルで、巧みな比喩を用い、意味深い意象によって台湾という土地への熱い想いを表現しています。散文は郷土への素朴な感情にあふれています。自伝的な意味合いが強く、他者の苦しみに対する共感を示し、生命への情熱を描き出しています。初期の小説は郷土への情感にあふれ、後期は推理小説が主流となりました。初めての推理作品『島嶼謀殺事件』は台湾推理小説の先駆けとされます。創作のほかにも、彼が創設した林白出版社は、初期台湾のロマンス及び推理小説の重要な拠点とされています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:林仏児『塩分地帯詩抄:中英日法合体詩集』

利玉芳「塩分の血」

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消除散赤苦澀的日子
掖一把鹽
共我心酸的記持
調味回甘

台湾語原文の意味:

貧困と苦悩の日々を消し去るには
一つまみの塩をふる
私の心の酸っぱい記憶を
味わい深く調和してくれる

利玉芳「塩分の血」
『放生——利玉芳詩集』 (釀出版、2018年)

作者紹介:
利玉芳の創作ジャンルは散文から始まり、1978年に『笠』詩社に加入してから詩を執筆するようになりました。彼女の作品は『自立晩報』文芸欄や『笠』詩刊に掲載されています。林芳年は、利玉芳の詩について「大胆なイメージ、新鮮な言い回し、古い格調を打ち破る能力がある。修辞においても研ぎ澄まされた精錬さがあり、状況の表現においても発展的である」と評しています。近年、利玉芳は地方のラジオ局で「児童詩の鑑賞」の構成作家として関わったり、児童文学や郷土教材の編纂、台南県下営郷にて高齢者たちからオーラルヒストリー仕事に取り組むなど、積極的に地域文化への貢献を続けています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:利玉芳『放生——利玉芳詩集』

葉笛「夢」

語音導覽

夢とは何か?夢とは塩。生きるために必要な塩。夢がある日々は苦痛。しかし、夢がない日々はさらに苦痛だ。なぜか?夢がなければ、すべては虚無と時間に過ぎないからだ。

葉笛「夢」
『落花の季節:葉笛詩文集』(蔚藍文化・台南市政府文化局出版、2019年)

葉笛の創作ジャンルは評論、詩、散文です。葉笛の詩や散文では、比喩、反語、通感(共感覚)を巧みに用いて自然や人生への抒情や哲学思想、万物への関心、台湾への思いや期待、社会や政治への批判を表現しています。葉笛は、詩を日常生活の一部であり、生活と社会へを振り返り反映させるものだと考えています。彼の評論は文学論を中心に、歴史を視野に入れて総合的に政治、社会、哲学、文学思潮から台湾文学を広い視点で論じ、個々の作者の作品を微細に分析しています。葉笛は日本文学と台湾文学の翻訳作品も手掛けています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:葉笛『落花の季節:葉笛詩文集』

葉石濤「受賞のことば」第五回国家文芸賞

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私は常に、文学は地上の塩だと考えてきました。塩は見かけは微小ですが、身体に欠かせないミネラルであり、食物の調味料としても最も重要です。文学も地上の塩のようで、目には見えないが人間の心に潤いを与えます。そして、文学だけが豊かで人間的な魂を培うことができるのです。

葉石濤「受賞のことば」
第五回国家文芸賞(2001年)

葉石濤の創作ジャンルには論説や小説も含まれます。1960年代中期から多くの小説を創作し、ユーモアのある筆致で貧しい小人物の運命を描写し、『葫芦巷春夢』や『晴れの日と曇りの日』など、人生の悲惨さや不条理な本質を表現する作品が多くあります。1980年代の戒厳令解除後の作品では、白色テロや二二八事件を背景にした作品が多く、自伝的な特徴が強く映し出され、『赤い靴』や『台湾男子簡阿淘(チェンアタオ)』などがあります。彼の小説は郷土意識が強く、土着の精神や歴史体験を重視し、人類の生存の困難さ、救済や解脱を追い求めるテーマで書かれています。文学評論では、『台湾文学史概要』が文壇で最も注目され、台湾の現代文学史の第一歩となり、台湾文学研究の証人として基盤を築きました。

陳胤「夕遊出張所、出張」

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毛毛仔雨ê我
Put一寡仔粗鹽
Tī手裡,親像捀你ê目屎
Hiah-nī頂真,按呢
大海定著知影
愛情有偌鹹

台湾語原文の意味:
私は細かい雨のような
粗塩を(手で)すくい
それは(私の)手の中で、あなたの涙をすくい取るよう
こんなふうに真剣に
大海はきっと知っている
愛情がどれほど塩辛いかを

陳胤「夕遊出張所、出張」
『台南詩行』(前衛出版、2019年)

陳胤の創作ジャンルは論説、詩、散文で、特に散文が中心です。論説は教育をテーマとし、台湾の現在の中学教育における問題点を浮き彫りにしています。詩作は日常生活で感じたこと思ったことを題材にしています。散文は素朴で温かみのあるスタイルで、日常のありふれた事物から導かれる感情をもとに、自然、人と文化を探求し、台湾の地元民に思いを寄せています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:陳胤『台南詩行』

黄勁連「序詩」

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白鴒鷥行來行去兮
塩埕佮船隻來去兮
大海,是阮寫詩兮
題材,阮無跤步手路
嘛無甚麼詼諧,阮干礁
卜拍拚來寫
寫作穡儂兮目屎
佮討海儂兮無奈
寫鹽分兮詩、阮
則有較好兮將來

客家語原文の意味:
白鷺が歩いている
塩田と船のあいだを行き来しながら
大海、それは私たちが詩を書く
題材であり、私たちは特別な技巧はない
派手な飾り気もない、私たちはただ
一生懸命に書く
農民の涙や
漁師の無力さを
塩分の詩を書くことで、私たちに
もっと良い未来となるのだ

黄勁連「序詩」
『都市の狭間で』(台笠出版社、1993年)

黄勁連の創作は詩と散文が中心で、文学論も記しています。大学時代には、詩仲間たちと「主流」詩社を創設し、先鋭的な詩や詩評を発表しました。同時に散文も執筆し、その言葉は素朴でありながら遊び心があります。詩のスタイルは荒々しさの中にも洗練された皮肉が含まれ、南部の地元農民特有の郷土らしさが行間に溢れています。彼の詩には音楽的なリズムがあり、一種の民謡風の歌のようです。リズミカルな拍子に乗りながら声に出して朗読するのに適しています。特に、彼が長期にわたって手がけた台湾語の歌詩は、大きな成果を上げています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:黄勁連『都市の狭間で』

柯柏榮「赤嵌楼情批」

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嚮時,你是我的守護者
揹銃扛砲神勇的戰士
佇台江外墘浸鹽水的沙洲徛挺挺
保護我袂受攪擾好睏眠

台湾語原文の意味:
その時、あなたは私の守護者だった
銃を背負い、砲を担ぐ勇敢な戦士
台江の外岸の塩水に浸かった砂州でまっすぐに立ち
私を守り、私が邪魔されることなく眠ることができるように

柯柏榮「赤嵌楼情批」
『赤嵌楼情批』(台南市立図書館出版、2009年)

柯柏榮の創作ジャンルは詩が中心です。リアリズムの台湾語詩を中心に、題材は個人的な経験、日常の思索、台南郷土の風景などを取り入れています。歴史的な出来事や弱者についての作品もあり、その詩のことばは身近で素朴に紡がれます。自身の経験に基づく作品では真摯で正直な情感が描かれ、郷土の記憶に関する鋭い洞察力と生命力に満ちています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:柯柏榮『赤嵌楼情批』

施瓊芳「台湾府志八景図の鯤身漁火に題する」

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瞥訝天星散海濱,千燈放網認鯤身。
地摹未化鵬程勢,火照將潮鹿耳津。
沙線盡頭通鳳邑,鹽丁額外悉漁人。
筠籃夜市爭鮮估,來日庖廚滿郡新。

施瓊芳「台湾府志八景図の鯤身漁火に題する」
『全台詩:第五冊』(国立台湾文学館出版、2004年)

鑑賞:
この作品は題画詩で、「台湾府八景図—鯤身漁火」の風土の美しい風景を描写しています。詩は、夜に沙州を囲む漁船が魚を捕る際の明るい灯りを破題とし、『荘子・逍遥遊』の「鯤が鵬となる」故事を用いて、沙州が台江の内海、鹿耳門水道付近にあることを示しています。次に、遠景から近景に視点を移し、砂浜の漁獲夜市にて、塩職人と漁師を中心に、竹籠を持って海産物を競って買う、生き生きとした様子を描いています。

施瓊芳はもともと龍文という名前で、1845年に進士に合格した後、瓊芳と名を変えました。台南市の出身です。進士合格後、江蘇省の知県になることなく、台湾に戻って海東書院の山長を務めました。次男の士洁(1856-1922)も20歳で進士に合格しました。施氏父子は台湾唯一の父子進士です。施瓊芳の生涯での著作は数多く、作品からは彼の「淡泊で謙虚」な性格が窺い知れます。施瓊芳の詩文は『石蘭山館遺稿』に収録されており、詩作は『全台詩』第5巻に編纂されています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『全台詩:第五冊』

林宗源「ボラの季節」

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安平港口衝出去扐夢的船
駛出暗紅色的海面
彼搭有烏柱
烏柱是阮的銀行

佇一年一擺的季節
阮儲蓄一年補破夢的日子

台湾語原文の意味:

安平港から夢を追いかけて勢いよく出航する船
暗く赤みがかった海面へ走り出す
ボラの柱はどこだ
ボラの群れは我らの銀行

年に一度の季節に
私たちは一年間の敗れた夢の日々を繕う

注1:この詩では、「補破夢」は同時に夢の境地を補修するという意味も持ちます。

注2:群がるボラを、漁師らはボラの柱と呼びます。ボラの柱がある所では、海水が暗く赤みがかった色になります。

林宗源「ボラの季節」
『府城詩篇』(台南市文化局出版、2011年)

作者紹介:
林宗源の創作は詩が中心で、台湾語詩の開拓者の一人です。彼は、台湾語をエネルギッシュで味わい深く、優雅だと感じており、台湾語は彼の心の中で自分の細胞のようなものであり、創作の瞬間、自然と言葉が湧き出てくると考えていました。林宗源は自分がよく知る母語を使って、民族への濃厚な感情を表現しています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:林宗源『府城詩篇』

呂政達「西瓜綿と叔父さん」

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二つの宴会で共通していたのは、西瓜綿(西瓜の漬物)と虱目魚のスープが出されたことだ。透明なガラス碗には虱目魚の腹と西瓜綿が入っており、漁村にしかない浮世絵のようだった。おかしな話だが、西瓜綿は少し甘酸っぱい風味がして、彼は七股の塩山、その塩分地帯特有の塩辛い風を思い出した。

呂政達「西瓜綿と叔父さん」
『西米露(白タピオカ)を食べに出かける——人々の光陰の味』(九歌出版社、2015年)

呂政達の創作は主に散文で、論文、伝記、児童文学も執筆しています。彼の散文は簡潔で流れるような文章の中、熟練した的確な言葉を選び、詩の特性と張力に満ちています。心理学と映画学を融合させ、人生の喜びや悲しみ、出会いや別れを表現しています。虚実のはざまで、彼が語る物語の中に読者を引き込み、心の深層に触れ、読者それぞれが自らの生命と照らし合わせます。近年では、家族や心身の相互作用を領域に、生理心理学、ジェンダー、親子関係など多様なテーマとして、読者に生命の意義や生活に対する態度について考えさせる執筆を行なっています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:呂政達『西米露(白タピオカ)を食べに出かける——人々の光陰の味』

陳倚芬「酥蔵未完の思い出の肉燕」

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私は揚げワンタンも好きで、スープに浸かって肉の香りを放っているワンタンが好きである。歯応えある魚のすり身と豚肉のしっかりしたあんを一口ひとくち噛みしめる。大海原を流される漂流者が霧の中に突然陸地を発見するとこんな風に歓喜するのだろう。海と陸の境界である砂洲を一歩ずつ踏みしめ、ようやく陸に着いたような感覚になる。

陳倚芬「酥蔵未完の思い出の肉燕」
『文字の稜線に立つ:第九回台南文学賞受賞作品集(下)』(台南市政府文化局出版、2019年)

作者紹介:
陳倚芬はペンネームは蔚宇蘅とし、台南塩水の出身です。長編小説『彼女は庭にいる』や短編小説集『幻獣症の家』などの作品があります。第九回台南文学賞の受賞者です。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:『文字の稜線に立つ:第九回台南文学賞受賞作品集(下)』

辛金順「塩粥」

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粥を一口すする。塩加減がちょうど良く、味わい深い。油で揚げたサワラの身が粥と混ざり合い、独特な食感と風味がある。油条は粥に浸してもよし、手でちぎって粥と一緒に食べてもよし、牡蠣のスープの甘みと一緒に食べるとまた違った美味しさがある。舌の上で転がる米粒、魚と牡蠣は、潮風のように舌を通り抜け、塩味の中に甘みを帯びて、まさに本場台南ならではの本質的な味わいがある。

辛金順「塩粥」
『時の流れる南方』(台南市政府文化局出版、2021年)

辛金順の創作ジャンルは主に詩と散文です。作者は、濃厚で温かな言葉を用い、脱構築的な詩句を通じて無常さと物悲しさを解き明かし、散文では悠悠たる歳月を描写しています。その詩や文章の創作には、生命と時間に対する作者の期待、慕情、矛盾、迷いが表現されています。

図説1:展示会の実際の様子

図説2:辛金順『時の流れる南方』

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