展示会の紹介 (展覽總說)

音声ガイド

本展では、社会変革前に「ジェンダー」文学が歩んだ物語を紹介します。これまで、古いジェンダー、男女の権力、恋愛の概念に屈せず、性欲の新たな観点から社会の方向性を変えた作家たちがいました。台湾を振り返ると、かつての男女間の愛の枠組みは男尊女卑に甘んじることのみがよしとされてきましたが、長い闘いを経て、現在のように互いを尊重する多様かつ豊かな世界が創り出されました。

物語は古い時代から始まります。当時、女性の自由は礼儀作法に束縛されており、超常現象の伝説のみがそれに対抗していました。日本統治時代には、女性への抑圧はやや同情的に見られていたものの、残念ながらその声は一部でしか聞かれず、やはり男性を支持する声がほとんどでした。戦後に大量の移民が台湾に押し寄せると、女流文学のグループが才能を開花させ、その内の少数は性欲や同性愛について描き、家父長制の枠組みを打ち破りました。戒厳令が解除されるとようやく雑誌の発行、街頭での活動、法律の規定など、さまざまな挑戦とともに自由な作品が社会の力になっていきました。

読むジェンダー、動くジェンダー。「読むジェンダー」特別展は、台湾文学が家父長制、女性の権利、エンパワーメントの間に流れる生理的器官に対する考えを影から光に変えた困難な道のりから紹介しています。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:『清明夢(明晰夢)』インスタレーションアート(黄至正|2021)
材料:画仙紙、薄葉紙、雁皮紙、金箔、銀箔、糸、墨汁、複合材料

清明夢(明晰夢)とは、意識がはっきりしている状態で見る夢のことです。創作者は「社会運動とは、人々が意識的に見る夢とその実践の過程である」と考えました。さまざまな紙の素材、ジェンダー文学からの引用、比喩により、各時代の服を作り出しています。紙への縫い付けやコラージュの過程に、当時の人々の望みが映し出されています。抑圧された当時の封建的な状況を私たちが想像することが難しいように、現在のジェンダー運動の最前線で訴えられていることも、私たちの視点次第で将来的に日常的なものになるかもしれません。

幽霊のみが平等な権利を得られた時代 (那個時代,當鬼才能平權)

音声ガイド

清代末期以前の女性は「三従四徳」の教えに従うことや纏足が求められ、読み書きもできませんでした。結婚は家長が取り決め、望まない相手に嫁いだり家庭内暴力を受けたりすることもめずらしくありませんでした。「女人、油麻菜籽命(女性の一生とは菜種である)」という言葉は、当時の女性をよく表している言葉です。女性は生きている間の地位が非常に低く、超常現象により報復を望むしかありませんでした。そのため、民間に伝わる強い霊はどれも女性の霊です。

「林投姐」「陳守娘」「椅仔姑」は、いずれも生前にいじめを受けて死に、幽霊になり恨みを晴らした女性の言い伝えです。当時、平等な権利は現実的にはありえず、「不是不報、時候未到(必ず復讐する、ただ今はまだその時ではない)」という戒めがあるのみでした。これらの「女性の霊が復讐を果たす」言い伝えは、社会の無力さと霊界では権利が平等であるというイメージを反映しており、後の芸術家たちを魅了しました。小説、音楽、映画、漫画の中では、女性の霊に新たな個性が与えられ続け、男性中心の物語を覆すムーブメントにつながりました。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:『校註海音詩』全巻。劉家謀の『海音詩』には「陳守娘」の物語が描かれています。劉家謀は清代の台湾府学の教諭で、著書に台湾の風土・民情を描いた『海音詩』があります。

図説4:『追昔集』原稿。呉漫沙(作家)『追昔集』の原稿と『台湾時報』に掲載された文章の切り抜き。内容はすべて閩南(福建省南部)の纏足の風習に関するものです。当時は息子の嫁を選ぶ際の条件として、はじめに女性の足の大きさを見て、次に才能や女性としての徳を見ると書かれており、当時の人々の習慣や三寸金蓮(纏足)への憧れ、古い考えの束縛が見て取れます。

フェミニズムの種が撒かれた日本統治時代 (日治殖民,女權種籽飄落地)

音声ガイド

かつて、女性について書いたり、女性が書いたりすることはめずらしいことでした。貴族の女性以外は漢文の教育を受ける機会がなく、漢詩で気持ちを伝えることができませんでした。日本統治時代になると、教育を受けて近代思想に初めて触れた女子学生たちが女性の境遇について考え始めました。しかし、学校教育を受けたとしても、良妻賢母になるべく刺繍や裁縫を学ぶために、13歳で退学を余儀なくされることもありました。

1920年代、台湾は日本統治時代でしたが、日本の国学では漢字が尊いものとされていたため、漢詩は依然として大きな勢力を誇っており、石中英や有名な芸妓だった王香禅など女性漢詩人が徐々に人々に知られるようになりました。蔡碧吟が代表を務めた「芸香詩社」は、台湾の女性作家によるグループの先駆けとなりました。自由な作風の時代で、実際の行動としては纏足に反対する「天足運動(自由の足運動)」が起こりました。経済においては、実家を離れて働く「モダンな女性」が登場しました。思想においては、彰化婦女共励会が勇敢に愛を求める文章を発表し、古い考えへの挑戦を公にするなど「女性の新文学」が登場しました。1930年には、文化の枠組みを突破した「跳舞時代(ダンス時代)」に突入し、新しい女性を代表する評論家の葉陶や記者の楊千鶴などが登場しました。

また、台湾の男性作家も女性の権利に注目し始め、楊守愚の『女丐(女の乞食)』など、女性の立場に立った作品も多くみられるようになりました。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:『金川詩草』。『金川詩草』は台湾の女性古典詩人、黄金川の詩集で、1981年に出版されました。『女学生』一人生をより良くしたいという志を胸に抱きながらも、女性の立場から感じる制限を嘆く気持ちが詩で表現されています。

図説4:『運河奇案新歌』(上)。1935年に台中瑞成書局から出版された歌仔(台湾オペラ)の歌集で、大甲区の林達標により書かれました。内容は日本統治時代に台南の運河で起こった心中を舞台にしたラブストーリーです。作品集には芸妓、養女、結婚相手の制限などが招いた悲劇的な結末や当時大きなニュースになった事件、一般社会制度に対する見直しや批判が収められています。その後、さまざまな歌集や戯曲の作品に改編されました。

権威主義に冬が訪れ、女性の平等な権利が芽生え始める (威權凛冬,女性平權小萌芽)

音声ガイド

1949年、多くの女性作家が国民政府と共に台湾にやってきました。五四運動で才気を発揮した新たな知識人たちが、それぞれ自分の得意分野で光り輝き、台湾女性の作品の幅が広がりました。この時期、「台湾省中国婦女写作協会」が設立され、蘇雪林、張秀亜、童真など数百名の著名作家がメンバーとして集まりました。書かれた作品は、台湾の状況をめぐる問題についてではなく、家庭内の権力関係などで、より自主的な空間が広がり、台湾の男女平等に新たな1ページが刻まれました。

60年代から70年代は台湾当局の権威主義が異端を抑え付けていましたが、権威主義に冬が訪れると、女性は一方では「反共救国」を守り、国や家族への恨みを描きながら、一方では「自我の意味」を追求。家父長制から逃れ、女性の人生に注意を向け始めました。これが台湾初の女性作家によるムーブメントを引き起こしました。

ジェンダー意識の思考とは、寒い冬の中で静かに梅の開花を待つようなものです。この時期、林懐民が発表した『アンドレ・ジッドの冬』では、モダニズムの文章の中に同性愛の物語が潜んでいます。白先勇の『孽子(げっ子)』では、男性同性愛者の微妙な感情や家族の葛藤が描かれています。ジェンダーに対するさまざまな意識が散発的に芽生え始めましたが、それは嵐の到来も意味していました。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:翻訳者の前書き。1973年、張秀亜が翻訳したヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』の後書きの原稿。

図説4:革の水筒。三毛は海外滞在中に、時間や空間における出会いを示すさまざまな物をコレクションしていました。革の水筒はそのうちの一つで、三毛が『私の宝物(我的宝貝)』に書いた、旅の途中で使っていた酒袋に似ています。当時、多くの読者も三毛の旅や冒険とコレクションに隠された物語とともに世界各地を飛び回りました。

戒厳令解除後の初春、ジェンダー運動の枝に緑の葉がつく (解嚴初春,性別運動枝葉綻綠)

音声ガイド

1979年、美麗島事件が発生する中、民衆のデモ活動がジェンダー運動の爆発を引き起こしました。女性作家の活躍が目立ち始め、袁瓊瓊の『自己的天空(自分の空)』の深い感情、寥輝英の『油麻菜籽(嫁ぐ日)』の悲しき女性の哀愁、李昂の『殺夫(夫殺し)』の衝撃的な反撃など、鋭い筆遣いで女性の心の声を吐き出し、家父長制の構造を批判しました。それと共に、多様化したジェンダーも攻勢を強め、凌煙の『失声画眉』、邱妙津の『鰐魚手記(ある鰐の手記)』など、祝福されない愛を描いた作品が多くの議論を引き起こしました。では、当時の人々や社会が間違っていたのでしょうか?

李元貞が中心となって創刊した雑誌『婦女新知』、曹愛蘭などが創設した「婦女救援基金会」が、「救援雛妓大遊行(売春児童保護運動に関する大規模なデモ)」、『民法親族編』の夫婦財産制の改正など、ジェンダー運動や法改正を後押ししました。文学の創作と社会運動が互いに協力し、ジェンダーに関する議論を促進しました。

また、戒厳令解除後は権威主義がわずかに緩み、タブーに触れる文学も現れ始めました。陳燁の『泥河』では、女性の視点から二・二八事件について書かれています。李昂の『彩粧血祭(化粧による死への回帰)』では、二・二八事件の犠牲者と同性愛者の恋愛について書かれています。当時、雑誌がジェンダーの権利を発言する舞台となったほか、「反性騒擾大遊行(セクハラ反対デモ)」では、「我要性高潮、不要性騒擾!(セクハラはいらない、オーガズムが欲しい!)」という、社会を驚かせるスローガンが叫ばれ、ジェンダー運動を傍観していた人々を刺激しました。

90年代、文学の雰囲気は「世紀末的華麗」となり、同性愛文学が爆発的に増え、文学界から社会に絶え間なく議論が投げかけられました。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:『騒動』季刊誌 創刊号。1996年6月、婦女新知基金会は『騒動季刊』創刊号を出版しました。発行人:蘇芊玲、編集長:胡淑雯。発行の挨拶では、「一般的な女性文学や女性学とは異なり、女性へ還元するために、女性の本当の望みと解放という目的に基づく雑誌である」ことが強調されています。ジェンダーの体制が改革され、家父長制を規範とした既存の社会秩序がかき乱される中、男性に対する新たな議論や国家や政党に対する女性の意見が述べられました。

図説4:『一輩子守著妳(一生あなたを守る)』漫画。1997年、沈蓮芳が描いた漫画『一輩子守著妳』が、東立から出版されました。北一女(台北市立第一女子高級中学)の学生が宜蘭で心中した事件に触発された作品で、社会を震撼させた事件を漫画で記録・表現しようとしたものです。物語に登場する主人公の一人は亡くなっていますが、もう一人の主人公は一人で世論と向き合いました。物語の結末は光に向かうところで終わっており、まるで20年後の今日の台湾を予見しているかのようです。本作品はまた、台湾初の「百合漫画」とされています。

真夏の光、球茎のように広がるジェンダー意識 (盛夏光年,性意識如球莖蔓延)

音声ガイド

新世紀の到来とともに台湾社会もますます開放的となり、文学作品も徐々に多様化していきました。男性同士の曖昧な関係を描いたBL(ボーイズラブ)、女性同士の情を描いた百合などが文学やアニメーションで美しさを競い合っています。男女の平等な権利、同性愛の肯定は、もはやタブーではありません。ジェンダーに関する作品はすでに開花しているかのように見えます。しかし、家父長制が依然としてその光を遮る時があり、性的いじめ、セクハラ、性的暴行などが、ジェンダーに悩みカミングアウトしていない人々や性暴力の被害者たちを苦しめています。文学はシンボルとしての力を発揮し、より自然に光を受け入れられるように闘いを続けています。

2000年、温厚な性格だった中学3年生の葉永鋕は、長い間いじめに苦しんでいました。学校のトイレで血まみれで倒れており、病院に運ばれましたが死亡が確認され、大きな騒動を引き起こしました。そこで、台湾では『性別平等教育法』が制定され、学校における男女平等の教育が推進されました。この事件を機に、葉永鋕は「玫瑰少年(バラの少年)」と呼ばれるようになり、台湾のジェンダー教育における重要な指標となりました。

なお、衛生福利部の統計によると、「性侵害犯罪防治法(性犯罪の防止に関する特別法)」が施行された1997年から2017年に報告された性的暴行の被害者は13万人で、そのうち未成年の加害者の70%が近親者や親しい友人でした。この10年後には、複数のハリウッド女優が映画界の巨匠、ハーヴェイ・ワインスタインから性的暴行を受けたことを明かしました。世界中の女性がソーシャルメディアで「#MeToo」のハッシュタグを付けて投稿し、黙っているしかなかった暗黙のルールを告発し始めました。

かつては議論することができなかった台湾のジェンダー文学は、今ではさまざまなジャンルで自由に表現され、日常的なものとなっています。男女の対立といった狭い範囲だったジェンダーの問題は、さまざまな作品で豊かに描かれるようになり、冬の闇夜を突き破り、光り輝いています。

--
図説1、2:展示会の実際の様子。

図説3:AR写真。

図説4:〈光〉。
この曲はアルバム『PLUTO』に収録されています。もともと、2015年の台湾公共テレビの時代劇『燦爛時光(The Best of Youth)』のテーマ曲として作られたもので、台湾におけるかつての戒厳令の抑圧から現在の自由な民主主義を反映しています。男女平等への道も同様に、最終的には徐々に暗闇から光へと移り変わります。2016年、この曲を歌った鄭宜農(チェン・イーノン)は公人として、ソーシャルメディアで自身の結婚を明らかにし、LGBTQの人々がリスペクトするシンボル的存在となりました。この動画は、2019年に開催された総統府のコンサート「自由の愛」に招かれた際のライブで、特別な意味をもっています。同年、婚姻平権(婚姻平等の権利)法案が立法院の第三読会で可決通過し、中華民国はアジア初の同性婚を認める国になりました。

おわりに (結語)

音声ガイド

さまざまなジェンダー意識と社会的な衣装を身につけ、茨の森、美しくもすぐに散ってしまう桜、辛抱強く花を咲かせる梅、真っ赤な蕾をつけたバラ園の中を歩いてきました。今、私たちは光に向かって成長する植物の世界にやってきました。

私たちは、ジェンダーの意識がオープンになった世界でこそ自由に服を着こなし、唯一無二の自分の性と向き合うことができることを知っています。

文学は台湾社会におけるジェンダーに対する感情のスイッチとなり、自分の部屋、開かれたクローゼット、旗がたなびく通りなど、今日の台湾ではどこでも男女平等となっています。台湾初の女性総統の誕生、同性婚を認める法律の制定も、間違いなく世界的なジェンダー意識の先駆けとなっています。

私たちが書き続け、対話を続けているからこそ、厚い雲を突き抜け、雨に濡れても虹の下で日の光を浴びることができるのです。

「書く」という気持ちを大切にし、文学の力を信じましょう。「ジェンダー」はただ読むだけでなく、動かすことができるのです。

--
図説1:展示会の実際の様子。

図説2:インタラクティブエリア
「男を黒い石、女を白い石とするだろ。元々、すべての人間は完全な黒でも白でもない。黒から白に変わるグラデーションの中のどこかだ。」——『片思い』東野圭吾

黒と白の間には無限のグレーがあります。このエリアではさまざまなカラースケールのブレスレットを準備しています。自分の体調や気持ちに合わせ、スペクトルのグラデーションの中で自分の位置を見つけましょう。

プレビューモード