展示内容について(策展緣起)

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動物は人類の文学作品において、欠かすことのできない存在である。神話・詩・小説・散文・童話にはみな動物のトーテムイメージ・生活の描写・感情のやりとりがあり、擬人化されることさえある。これらは一般的に動物文学といわれ、人と「人以外の」大地の生き物との間の関係性も含まれている。

台湾文学の悠久の歴史のなかで、動物をテーマとした作品は当然少なくない。原住民族の文学には動物の精神と魂があり、古典的な漢詩には島国特有の鹿や鳥の足跡がみられる。日本統治時代の小説には苦労する哀れな子牛や馬がおり、現代主義文学の潜在意識からは動物から人間の原始的な獣性が見え、都市文学では優しく傍に居てくれる猫や犬がよく見られるが、当代文学のネイチャーライティングでは一転して、人類文明の膨張を再認識しはじめる。

動物は文字を必要としないが、人間が代わりに「動物文学」として綴ることで身体と命の経験の多様性を豊かにしている。旧約聖書のヨブ記には「獣に尋ねるがよい、教えてくれるだろう。空の鳥もあなたに告げるだろう。」という言葉があり、獣と鳥は深邃な自然界であるといえる。人類はここで人類を超える知恵を発見した。だからこそ人以外のものにならねばならない。

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図説1: メインビジュアル回廊

図説2:『動物の窓』インタラクティブインスタレーション
回廊にあるガラス窓の外には植物が生い茂り、霧の中でキラキラと輝いています。静かにゆっくり歩き、床に丸いマークがついている窓の前で少し立ち止まってみてください。森の中の光と影をよく見てみましょう。誰が見えましたか?

図説3: 展示会の実際の様子

図説4:『動物の鏡』インタラクティブインスタレーション
もし、「人以外のもの」になれるとしたら、どんな動物になりたいですか?変身する鏡の前に立ち、浮かび上がってくる言葉を読みながら感じてみてください。体に翼が生えてきましたか?それとも?

魂を描く目(書寫靈光的眼睛)

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動物と人類との最初の出会い。原始社会の天地万物にはそれぞれ霊が宿り、共に一つの宇宙を構成している。台湾の原住民族もまた然り。口承文化の祈りの言葉と伝説は全て命を尊重する闊達な精神に富み、当代の文学創作においても万物を平等に見なす姿勢をもって命はお互いに因縁と絆で結ばれ、虫・魚・鳥・獣とともに楽しく共存していくという思想に満ちている。

現代多くの作家が集落の精神を理解・吸収し、独自のスタイルを表現している。彼らは台湾の固有種を描き、台湾特有の地理や生態を反映して豊かな象徴記号を形成している。ベンガルヤマネコ・ツキノワグマ・ウンピョウなどは全て台湾動物描写の神秘性に富んでいる。

現代文明は台湾全域に浸透し、集落の伝統領域にも及んでいる。原住民の文化的権利、動物の生存権など文化と法律は歴史的平行線をなし、矛盾を呈している。ここで、原住民の動物文学をひも解いてみよう。山や海での狩猟を通して大自然と生命に対する価値観が見いだせるであろう。

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図説1、2:展示会の実際の様子(名文の窓)

図説3:卜袞「界」
すべての詩がブヌン語と中国語で書かれており、ブヌン語を伝承しながらブヌン族の精神的なイメージを書くという文化的意義を備えた作品。12編書かれた「ブヌン語の詩」の最初の詩で、ブヌン詩歌における「朗読のリズム」と「戦功を報告する輪廻形式」という特徴的なスタイルが存分に発揮されている。タイトルの「界」には、分割、引き裂く、制限、人為、対立、区別などさまざまな意味が含まれており、作者は「人為」が「自然」に変わる過程での感慨を表現している。

図説4:郁永河『合校足本裨海紀遊』
郁永河は1697年(康熙36年)、硫黄を採掘するために海を渡って北投にやってきて、8か月にわたる台湾の旅で見聞きしたことを「採硫日記」にまとめた。『裨海紀遊』とも呼ばれており、台湾初の中国語による長編旅行記でもある。本作品集には48編の詩と19編の文章が収録されている。見聞きしたことを文章で記録し、感じたことを詩で表現した、台湾初期の歴史・文化と古典文学を代表する作品である。台湾で初めて目にした自然環境や動物に対する驚きについても多く言及されている。

古典の田園シンフォニー(古典田園交響曲)

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台湾の古典文学には、はやくから動物が描かれている。1684年に台湾が清朝の版図に組み込まれてからというもの、官僚たちは原住民の狩猟や漢民族の開墾を描いてきた。三百年前のテーマにおいて、動物は人間に利用され使われるものであった。

台湾は清朝の移民開墾時代から日本統治時代の1940年代まで農耕社会であった。この時期の漢文学における動物描写は大きく二つに分けられる。一つは家畜あるいは野生動物から肉・毛皮・薬草力・労働力などを得るための実用的な対象としてであり、もう一つは犬や猫を愛する文人、耕牛の苦労を感謝する農民、牧羊犬を愛でる在台日本人など、愛情を注ぐべき対象としてである。何れも作品中にその姿を現している。

しかし、農村における動物文学の意義は、第二次世界大戦の終結・工業文明による衝撃によって激変していく。

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図説1:展示会の実際の様子(名文クローズアップ)

図説2:生命の門-AR写真

図説3:楊逵『鵝媽媽出嫁(鵝鳥の嫁入)』
楊逵による日本語の作品で、1942年に『台湾時報』274号で発表された後、1966年に中国語に翻訳された。初めて発表された日本統治時代或いはでも 、中国語版が出版された戦後の中華民国政府の時代のどちらにおいても、人々は母ガチョウのように抑圧される弱者であり、その自分たちも弱者や言葉を話せない動物に対して同じように接していることを忘れがちである。

図説4:『文学評論』2巻1号 新年号
呂赫若の「『牛車」』 が初めて掲載された逐次刊行物。この小説からは、日本政府による工業化へのと 変化、規則の公布に伴い、「牛車」が輸送や交通手段としての重要性を失っていく様子が見てとれる。また、かつて社会の中心だった牛と農業から徐々に脱却していく様子も示唆されている。この時期、牛も食用として利用されるようになり、日本政府の推進の中、多くの逐次刊行物、文章、新聞広告、文人の日記に肉用牛についての描写が見られる。

変調をきたした工業論理(變調的工業邏輯)

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台湾は戦後、冷戦体制下において米国陣営に加勢したため、米国からの援助によって経済は上昇したが、動物の意義は膨大な工場と労働者のもとに影を潜めた。機械に敵うはずのない動物たちは、犂を下ろされ、ベルトコンベアにのせられた。動物は大量生産・標準規格・コストと利益を追求する商品として顔のない食材となった。文学は動物の過去を記録し、また人類の未来に注意を促す動物も記録した。

田畑にいる白鷺、窓辺の雀、一晩中鳴き続ける蛙や虫の声は多くの台湾作家に共通する幼少期の記憶である。しかし台湾経済の高速成長により田舎の小道は大通りとなり、かつての動物の楽園は完全に姿を消してしまった。

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図説1: 展示会の実際の様子(名文クローズアップ)
文字や記号の断片が大量生産品の内容表示となっています。さまざまな瓶や缶の内容説明は文学からの抜粋文で、工業化時代の悲哀を表現しています。興味のある展示品を選び、じっくり鑑賞したり写真を撮ったりしましょう。

図説2:生命の門

図説3:『豊年』21巻17期
『豊年』は1951年に創刊された隔月誌で、農業の生産技術に関する報道を中心とした台湾の農民のために作られた雑誌である。農村の環境や農民の読書習慣も考慮され、発行の初期は農村部の暗い照明でも読めるように大きな版面に大きな文字で印刷されていた。また、読書への関心を促すため、多くの写真、挿絵、漫画などが取り入れられた。

図説4:『台湾文芸』14巻54期革新号1期
呉晟の「『獣魂碑』」 は本誌に初掲載され、その後、1985年に洪範が出版した『吾郷印象--呉晟詩集之二』に収録された。作者の故郷への共感や農村に対する思いから、土地や環境、共に過ごした家畜を追憶する。家畜類を主人公にした詩が多く、本詩集の「『禽畜編』」 という詩集にまとめられた。このほかに「鶏」「犬」「豚」「牛」「羊」などの詩がある。

猟奇的な消費の修羅場(獵奇消費修羅場)

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台湾の都市化のスピードは速く、その比率も高い。都市における人付き合いは必然的に疎遠になり、虚しくなった心を癒すべく、動物の扱い方にも新たな様式が現れた。猟奇的な動物の消費と富裕を誇示するための動物飼育などが出現したが、その反面、都市に彷徨う動物を大量に造りだすという動物遺棄の問題も表面化した。

人類は都市に新たな動物の生態系を創造すると同時に反省の機会も見いだした。この20年来、台湾文学において二つの動物像が現れた。一つは見慣れぬ珍獣を生物の本能に対比させ、現実の可能性に挑戦し、人間性の極限を追求するもので、もう一つは動物に寄り添い、猫や犬が可愛がられるか或いは虐待されるかという境遇を大いに捉え、動物遺棄の問題に批判的な角度から注目するというものだ。文学はただ消費するのではなく、ひたすら動物の持つ深意を見い出す努力を続けたのである。

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図説1:展示会の実際の様子 (名文クローズアップ)
展示エリアの虫眼鏡で見てみると、文字の中に巧みに隠されたイラストを見つけることができます。

図説2:生命の門

図説3:呉漫沙「『猫来富狗来蓋大厝』」
「猫来富、狗来蓋大厝(猫が富を招き、犬が豪邸を建てる)」は、もともとことわざで、作者はそれをタイトルにし、今と昔で異なる猫や犬の命に対する関わり方を表現している。作者は、現代のいびつな社会において、猫と犬はビジネス商品にされていると考える。例 として、:中南部の猫が農薬を誤食してネズミの被害が増えたため、たくさんの人々が家猫を捕まえるために北へ向かった。一方で、たくさんの人々が犬を捕まえ、その肉を「香肉」と名付けて売ったなどが挙げられる。


図説4:林仏児『人猿之死』
本作品は1985年に発表され、『推理雑誌』1巻4期4号に掲載された。80年代は狩猟、観賞、民間療法の薬として動物の狩猟と売買が盛んで、きちんと規制されていなかったことが本作品からも見てとれる。本作品は動物保護を提唱するものではなく、推理小説の形式で当時の台湾の市街地や時代背景、混沌の中で売り歩く下層の人々、猿との接触の様子が生き生きと繊細に書かれており、サスペンスの雰囲気を引き立てている。また、人間性と動物への感情の矛盾と風刺が自然に表現されている。

多様な価値観(多元價值眾生相)

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現在の台湾では動物の権利は常識となりつつあり、動物の福祉と人類の利益を調和しようという社会運動が増え始めている。台湾の動物文学は、動物が人類の文明によって支配されている窮状を指摘し、法律と制度による構造的暴力について考えさせる。動物を描く作家は実際の状況を深く理解し、「人間中心主義」を反省するとともに生態環境倫理の意識を促し、命を尊ぶ絶対的な内在的価値を求めている。

人間は動物を通して自分が自然の一部に過ぎないということに気付き始め、人類滅亡後、人類以外の可能性を見出だそうとしている。人類と動物の関係も生命の多様性の呈することとなる。動物に関心を持つ文学者は、不安な心を抱えながらも、その目を都市の外に、ひいては荒野、生態系など人類以外のものに向け始めた。

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図説1:展示会の実際の様子

図説2: 生命の門-AR写真

図説3:徐仁修:人類所謂的荒野……(人類が言う荒野とは……)
この短詩は作者の徐仁修が荒野保護協会を設立した1995年6月25日に書かれた。自然生態系に対する考えや協会を設立した理事長としての根本精神の核と目的が表現されている。屏東農業専科学校を卒業した徐仁修は、農業や台湾固有種の動植物を研究しており、文章には人、文化、土地に対する強い思いが込められている。

図説4:フスルマン・ヴァヴァ『烏瑪斯的一天(烏瑪斯の一日)』
同作家が初めて発表した短編小説で、1995年に『台湾時報』に掲載され、その後、『那年我們祭拜祖霊(その年、私たちは先祖の霊を祭った)』という書籍に収録された。この作品では、少年の純粋な視点からブヌン族の文化と精神が表現されている。主人公の烏瑪斯は、同作家の最後の長編小説『玉山魂』にも主人公として登場している。

動物園における凝視(動物園裡的凝視)

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「動物園」は人類が動物を凝視する典型的な空間だといえる。台湾における希少動物の飼育は明・清時代の上流階級の個人庭園から起こったが、公開展示、営利的な教育は日本統治時代の「動物園」から始まった。
動物園は鏡のようであり、そこにいる動物たちは日常生活と隔たれ、特定な時空背景における人類の倫理学・経済観・美学を反射していた。

1970年代後期の台湾では、動物保護の観念が徐々に芽生え、動物の合法的取得・居住環境・パフォーマンスの規範など、動物園は娯楽優先から動物福祉を重視するようになり、動物本位の考え方が試みられた。異なる時期に描かれた動物園からは、展示の歴史を記録としてだけでなく、深い考察も見て取れる。現代の動物園に関する文学は、動物の権利やアニマルウェルフェアのほか、野生復帰を訓練し、動物に本能を発揮させる描写など、観察の中から関心を持たせたり批判したりするという別の目的が込められている。

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図説1: 展示会の実際の様子

図説2: 生命の門

図説3:杜潘芳格の詩「動物園」の手稿
日本統治時代の末期に生まれた杜潘芳格は子供の頃に日本の教育を受けたため、初期の作品は慣れ親しんだ日本語で書かれている。動物園で見られる動物について書かれた詩で、各動物の特徴的な姿を具現化し、動物園が人々に与える楽園の美しいイメージが表現されている。詩は子供が真剣に想像している口調で書かれている。

図説4:象の置物
左側の象の色や動きは施叔青の『風前塵埃(風前の塵)』における表現と同じで、「長い鼻を丸めて上に持ち上げている」姿は、今にも水を噴き出しそうである。右側の象は、人間社会で象が商品化されていく過程を表している。人の目を引くために、さまざまな装飾や豊かな色彩が加えられることが多いが、本来の独自性から象だと分かる。この象の置物は林海音氏のコレクションである。林海音氏は子供の頃から象が好きで、世界各地から材質や形の異なる象のグッズを1,000点以上コレクションしている。

動物の叙情(動物抒情片)

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このエリアでは、額縁に入れられた文学作品が壁いっぱいに掛けられています。床の丸いマークの上に立つと、作家が描く生き生きとした命を目覚めさせることができます。

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図説1、2:展示会の実際の様子

図説3: 動物文友会
動物の王国で議論されているテーマに参加してみませんか?
https://reurl.cc/GxOdzp
タッチしてインタラクティブなオンライン投票に参加し、自分の意見を表明してみましょう。投票結果は展示会場のスクリーンに表示されます。

図説4:動物ブロック
展示の最後には、遊び心のある小動物のイメージと詩が散りばめられています。

おわりに-続く(尾聲-未完待續)

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動物文学は、人間が動物から謙虚さを学ぶための出発点であり、如何により良い自分になるかを我々に考えさせてくれる。

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図説1:動物文学大事記

図説2:動物図書室

図説3、4:動物ブロック
動物のイラストを組み合わせたイメージと詩が壁に広がっているほか、本の山からその痕跡を見つけることができます。

此為預覽畫面